10月28日は平日の木曜日ですから、学校では通常の授業が行われています。
今回は大きな舞台で演技することで生徒たちが学ぶことの多さを考慮し、校長の特別な計らいで、お昼から学校を出ることを許可して頂いておりました。 小道具を運ぶため、一足早く、車で出発していた私のところに1本の電話がかかってきました。
「今、駅に着きました。1時22分の電車に乗ります」 彼女たちは12:40に4時間目の授業が終わると急いで最寄の茅ヶ崎駅に向かうことになっていました。東京ドームに到着するのはどんなに急いでも3時過ぎです。 わずかな時間の中で、どうやって準備をさせるか、どうやって気持ちを落ち着かせ、同時に、高めていくか、私の不安は募るばかりです。やはり、彼女たちが息をはずませながら、球場に到着したのは3時10分ごろでした。 あと、3時間……。容赦なく時計の針は進んでいきます。
4時からは、通し稽古(音楽をかけて本番と同じ演技をすること)の予定です。ランサーズにとって、はじめての東京ドームでの演技。通し稽古はどうしてもしっかりとやりたいと思っていました。いくら練習は重ねていても、やはり実際の会場で一度も演技する事無く、本番を迎えるのは無理があります。目に入る風景も、空間の感覚やグラウンドの感触や、起伏・障害物など想定しきれない色々なものが違うからです。 通し稽古の15分前に、場渡り(自分たちの立ち位置を確認すること)をさせて頂ける事になりました。演技スペースの広さを充分に考えて構成を作り、練習をしてきたのです。練習どおりやればうまくいくはず。それなのに…。 やはり、危惧していたアクシデントが発生してしまいました。 生徒たちが一番、力を入れて練習をしてきた球団旗を使っての大きなフォーメーションの練習が、球場の設置物の関係でできません。本番の時には無い筈の物が、通し稽古の時間にグラウンド上に設置されていたのです。搬出を待っている時間はありません。
頭を抱えてしまいました。でも、悩んでいても時間は確実に迫ってきます。急遽、内容の変更をしました。プロのダンサーならば、「臨機応変」ということもできるでしょう。しかし彼女たちにそれを要求するのはかわいそうです。私は指導者として、そして、振付師としての自分の力不足を情けなく思いました。 練習が満足にできないまま、通し稽古が始まってしまいました。
「スタンツ(高いジャンプや組体操の総称)は、やらなくていいからね。」彼女たちの不安を思い、そう声をかけました。 しかし、厳しくつらい練習をとおして、彼女たちは私の知らない間に、本当に強くたくましくそして、大きく成長していたのです。
「先生、大丈夫です。できます!」 かえってきた言葉は力強く、その表情には自分達自身に対する大きな自信とプライドに溢れていました。 |