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第11話 10月28日当日(その3)
「先生、大丈夫です。できます!」
この言葉で、私は演技の成功を確信しました。

 素直で明るく、そして優しい茅ヶ崎高校チアリーデイング部の生徒たち。彼女たちに足りないのは、唯一、闘争心というか、激しさというか、精神的な最後の1歩でした。

 私が茅ヶ崎高校に勤務をするようになった10年前−校内には学校荒廃の傷跡がまだ色々な所に残っていました。トイレに鏡は無く、職員室の机は、当時としてはめずらしい木製の古いものでした。一部の生徒たちが壊した窓やロッカーの修理のために、職員の机まで買う余裕はなかったからです。優しくてかわいい生徒たち。でも、どこかうつむきがちで寂しげな表情が私には悲しくてなりませんでした。チームを作り、大会に出るようになっても、大会会場の片隅で、自信なさげにみんなで肩寄せあって、下を向いていた姿が、今でも忘れられません。 「いつか、胸を張って名乗れるチームにする。」 それが、私の願いでした。

「なんか、いいです!」
通し稽古が終わり、演技の細部の確認をしている時、トスを上げてもらって高いジャンプをするYちゃんと目が合いました。 大きな目をさらに大きくして私に言いました。高校生達の演技の成功はYちゃんの調子にかかっているようなものなのです。私は益々、うれしくなりました。 何度も髪のリボンを結びなおす子。 同じ振りを繰り返し練習する子。 ため息をついてはストレッチをし続ける子。 控え室では、みんな、それぞれに違うことをしています。でも、その気持ちはみんな、つながっています。願いはただ一つ。演技の成功でした。

「うまくやろうと思っちゃだめだよ。」
緊張の面持ちで出番を待っているメンバーたちに、国歌斉唱の為に一緒にスタンバイをしていた藤城和明投手が声をかけてくださいました。子供たちの肩の力を抜かせるためにおっしゃって下さったんだと思います。他にも色々とお話をしてくださり、とてもうれしく思いました。私も生徒たちも、優しくて楽しい、藤城さんのファンになりました。 と、その時、藤城さんの少し後ろの方から声がしました。

「どこの学校?」
「神奈川の茅ヶ崎高校です。」
<2004-11-10>
 
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