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第12話 10月28日当日(その4)
藤城さんとの会話をお聞きになられていたのでしょうか、近くにおられたどなたかが、生徒たちに話しかけてきました。

「○○高校がうまいんでしょ?」   その学校名を聞いて、とたんに子供たちの表情が険しくなりました。

その学校は古い伝統と輝かしい歴史を持つ、神奈川県下有数の超名門校です。今春、アメリカの大会に出場して優勝した時には、広くテレビや新聞に取り上げられ、一躍有名になりました。演技の内容は超高校生級、よく練習されたすばらしいチームです。指導にあたっているコーチとは、私も大変親しくしているので(もちろん、私の方がずっと年上ですが)、その快挙をうれしく思っておりました。でも、そのチームはダンスチーム。ランサーズの高校生がやっているスタンツの入るチアリーデイングとは種類の違うものなのです。

茅ヶ崎高校チアリーデイング部は、今夏、5地方大会を勝ち抜いた選りすぐりのチームが競い合う全国大会で優勝。全国160校の頂点に立ちました。でも、そのことは、テレビはもちろん、地元、神奈川の新聞にも取り上げられることはありませんでした。 「うちの学校なんかだから、話題にならないんですよね?」 この言葉を聞いた時、悲しくて切なくて、胸が張り裂けそうでした。 日本大会優勝の後、茅ヶ崎高校は2年ぶり3回目の世界大会に出場しました。それでも、地元紙にさえ取り上げられることはありませんでした。一方、ずっと規模の小さい大会に出場した○○高校は大きくテレビのニュースで取り上げられていたのです。確かにその高校の名声と比べて茅ヶ崎高校は、県内の入試レベルでは大きな差がありますし、過去に荒れた時代もありました。でも私の生徒たちは本当に優しくて、穏やかで、そして素直な子たちです。その彼女たちが、そんな風に考えてしまう現実にいたたまれない気持ちになりました。 ニュースで取り上げられたり、ちやほやして欲しいと言ってるのではありません。でも、多感な10代の女の子にとって、同じように努力して手にした栄光に対する周囲の対応の彼我の差に、相当傷ついていたのです。私の前では、自分達のその感情をぶつけることはありませんでしたが、それがいじらしくてなりませんでした。 厳しい練習に打ち込んできた彼女たちのひたむきな姿、その結果としてかちえた成果は、とても素晴しい物で、誇りに思うべきものです。メディアにとりあげられなくても、その価値が損なわれるようなことは何もありません。それでも、やはり彼 女達の言葉は、指導する立場にある当時の私の心を千々に乱しました。

そのようないきさつをご存知なく、何気なくおっしゃったのでしょうが、瞬間的に私は「あっ」と心臓を鷲掴みされたような気持ちになりました。でもすぐに、こう思い直しました。 今の彼女たちなら、そんな事で動揺したり演技に影響したりはしない筈です。むしろ前向きに、発奮材料として欲しい…いえ、きっと、そうしてくれる。

「あなた達の力を、みんなに見せてきなさい。」 あらゆる気持ちをその一言に込めました。
「はい! 必ず!」
<2004-11-15>
 
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