まもなく全米最大のスポーツイベント「NFLスーパーボール」が行われます。
アメリカでは、何年も逮捕できなかった指名手配犯が、「スーパーボールの観戦チケット当選しました」という、おとり捜査の新聞告知に名乗り出てきて逮捕されたとか、中継のコマーシャル料が60秒で5億円だとか、スーパーボールの注目度を表すエピソードには事欠きません。
極めつけは、戦争の作戦がスーパーボールの試合時間によって変更になった事もあるほどです。
そんな全米が注目するスーパーボールですが、アメリカンフットボールの世界には、まことしやかに言われている、とても嫌な言葉があります。
「野球の捕手と、フットボールのQB(クォーターバック)には、黒人はふさわしくない。」
自由・平等の国、自身の努力によって夢のかなう国、そんなイメージのアメリカにあって、いまだに言われている、信じがたい言葉です。
捕手もQBも共に司令塔。ゲームメイクの重要なポジションです。その重要なポジションに黒人はふさわしくない、務まらない。司令塔は白人が勤めるもの、というのです。
実際、黒人のQBが年間王者を決めるスーパーボウルに出場したのは38年の歴史の中で、わずかに2人。
2002年に亡くなったNFL黒人初のQB「スローワー」は「私はジャッキー・ロビンソン(米大リーグ初の黒人選手)と同じだった」と語っています。試合で、相手と戦う前に、まず白人優位社会にある冷たい偏見や差別と戦わなければならなかった。一流プレーヤーとして活躍するのには、実力がありながら、肌の色のために、なかなか認められない、その悔しさ、もどかしさを乗り越える精神的な強さがまず必要だったのです。
第14話で書きましたが、私がアメリカでお世話になった家のおかあさんは、誇り高い典型的なWASP※の女性。私に対しては、本当の娘のように、深い愛情を注ぎ、そして時に厳しくしつけてくれました。でも、彼女も黒人に対しては、理解しがたいほどの差別と偏見を持っていました。
彼女の家はロサンゼルス市郊外にある、高級住宅街の丘の上にありました。あたり一体、全て大邸宅。当たり前のように、そこに住むのは白人だけでした。黒人はもちろん、私のような黄色人種もいませんでした。私がその家に滞在を始めた時、おかあさんは、私を町のいたる所に連れて行ってくれました。そして会う人、会う人、みんなに
「私の日本人の娘よ。よろしくね。」と言うのです。
彼女は、町の実力者。たいていの人は彼女にたてつくことはできません。彼女はそうすることで、私が、その町で差別をうけないように予防線を張ってくれていたのです。
ある日、町中が大騒ぎになる騒動がおきました。黒人のファミリーが、引っ越してくるというのです。日本人の私からすれば、「何が問題なの?」という気持ちでしたが、町民たちにとっては大問題。町の女親分である私の“おかあさん”は、もちろん何もしないわけにはいきません。先頭に立って反対運動を始めました。
私達日本人は、黒人と同じカラード(有色人種)。アメリカ社会にあって、その立場は黒人と同じだと思います。家に帰ると、おばさま達が集まり作戦会議を開いていることなどもよくありました。そのような時は、いたたまれない気持ちでした。
結局、黒人のファミリーは引越してきませんでした。でも、どうしても納得のいかない私は、おかあさんに精一杯勇気を奮い起こして聞いてみました。
「そんなに黒人を嫌うおかあさんが、どうして(同じカラードの)私をこんなにかわいがってくれるの?」
返ってきた答えは単純明快。私はそれ以上何も聞くことができませんでした。
「You are special.(あなたは特別。)」
2003年9月。アメリカでは、ある評論家の言葉が物議を醸し出しました。
「黒人にもQBが務まると言いたいあまり、黒人選手を過大評価している。」
その言葉の矛先となった選手が、来週2月6日、フロリダ州ジャクソンビルで開催される、今年度王者決定戦スーパーボウルに登場します。NFC(ナショナル・カンファレンス)チャンピオン「イーグルス」のQB「マクナブ」です。
言われなき偏見と戦い続けた彼の勇姿を見るのが、今から楽しみでなりません。
|