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第31話 『捨てたくない夢』
「アメリカに行ってチアリーダーになりたいんです。」
目をキラキラ輝かせてそう言う少女の顔を見て、おもわず口元が緩んでしまいました。
遠い昔の私を見ているようでしたから。

 日本全国、今、まさに受験シーズン。
私の勤務する茅ヶ崎高等学校でも、神奈川県立高等学校の入学者選抜制度のとおりに前期・後期2回の選抜学力検査を行いました。

前期の検査は面接試験のみ。

その中で 「将来の夢は何ですか?」
という質問に対して、1人の少女がこう答えたのでした。

「茅ヶ崎高校でやってみたいことは?」
という質問に対しては
「英語を一生懸命に勉強したいと思います。」

  面接試験という特殊な場面ではありましたけれど、私の心の中に清々しい心地よさを残してくれたこの少女との出会いを、私はとてもうれしく思いました。

 20年の教員生活で、多くの生徒達と関わってきました。その中で、最近、とても悲しいことがあります。それは、昔の生徒達と比べた時に、最近の生徒達は自分の夢とか、希望とか、そのようなことに対しての意識が希薄であるということです。

「ニューオーリンズに行ってジャズをやりたいんです。」
と言って私の英会話の授業に熱心に参加していた男子生徒がいました。いつもは眠そうにしているのに、私の英語の授業は熱心に参加してくれた男子もいました。その生徒は、今では、ちょっと有名なプロサーファーです。世界中の海で戦うことを彼は高校生の頃からすでに視野にいれていたのです。

  ランサーズの高校生達や自分の担任しているクラスの生徒達と、進路の相談をすることがあります。
多くの生徒達は、なんとなく、「○○に進んでおこうかと思う。」というような、あいまいな進路希望しか持っていません。
「とりあえず○○の資格でも取っておこうかと思うので専門学校にいきます。」
という生徒が圧倒的に多いのが現状です。

「何が何でも○○になりたいんです。」と、上記の受検生(神奈川では学力検査を受ける生徒ということで、受検生と表記します)のように、将来の希望を語ってくれる生徒はほとんどと言ってよいくらいにいません。

 先日、職員室で、地元地方紙を読んでいる時に、ある野球選手のことを紹介した小さな記事が目にとまりました。
  全国高校野球神奈川大会の準優勝校で1年生の時から活躍。3年生の時には主将としてチームを牽引、主軸として活躍。その後、進んだ首都大学野球でも1年生の時から、レギュラー争いに加わるものの、最後の年は学生服姿でスタンドでの応援に甘んじた。それでも、野球への情熱は捨てがたく、就職活動をする友人達を尻目にトレーニングに励み、4月からは四国独立リーグでプレーをする、という選手の記事でした。

  同世代の若者達がとても手にすることのできないような大金を手にし、希望に満ちたスタートを切るプロ野球の新人選手達と違い、彼が4月から、手にすることができるのは 月給わずか12万円。(その他には、4月から9月のシーズン中、食事代が月に10万円)単年度契約で、見捨てられたら、後がない!
   厳しい条件と言えます。 それなのに、 「野球に没頭できる環境がある。」とあえて、その厳しい環境を選んだ、その選手の言葉に、普段の生徒達との関わりの中では、最近、久しく感じることのできなかった、なんとも言えないさわやかな感動を覚えることができました。

  彼が、これから進む道は、決して平坦なものではなく、大好きで選んだ野球道ではあっても、時として、投げ出したくなったり、逃げ出したくなったりすることがあるでしょう。 でも、まだ22歳。その先に何があるかわからず、ただひたすら全力でやってみること、それ自体に大きな価値があるように思います。全力で歩み続けた彼の未来には、彼の進むべき一筋の道が必ずや照らし出されることでしょう。  

彼の言葉に、私はそれを確信しました。
「野球を続けるチャンスをもらった!」
 
<2005-03-24>
 
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