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第39話 『同じことをやり続ける才能』
 「すみません。救急車を呼んでください。」

 自分の車から出て、歩き出そうとした途端、ひどいめまいに襲われ、その場に倒れてしまった私は、携帯で同僚に助けを求めました。

 日々の業務の忙しさに加え、チアリーデイング部が大切な大会や行事を控えたことで、気ぜわしく、その準備に追われていました。それに、チアリーデイング部を夢見て、入学してきてくれたたくさんの1年生部員の指導のことも気になって仕方がありませんでした。倒れた日の2日前、私は1年生につきっきりで練習をみていたのでした。

 年ごとに、月ごとに、あるいは日ごと、体力がなくなっていくような気がします。
生徒達の練習につきあっていても、去年の今頃できたことが、もうできなくなっています。

 野球やサッカーといった競技人口の多いスポーツと違い、ダンスあるいはチアーは、高校生になってから始めた、という初心者がほとんどです。口で言っても理解してもらえるはずはありません。どうしても、やって見せて、真似させなければなりません。その短いたった一振りのダンスさえもが、最近ではとても体にこたえるのです。

 何本も点滴を打って、やっと病院から家に帰ってきました。でも、なかなか体力は回復しません。
それにしても、こんなことくらいで体が悲鳴をあげるなんてーーー。
すっかり自信をなくしてしまいました。
陰鬱な毎日をすごしていた時、そろそろ私を助けてあげよう、と神様が思ってくださったらしく、うれしいニュースが目に入ってきました。

 34歳5ヶ月の出羽の郷関が新十両に昇進したという話題でした。
1986年の初土俵から実に20年目にして十両となったのです。
鍛え抜かれた巨体どうしのぶつかりあいーーーその衝撃は、思いっきり壁に頭を打ちつけるのと同じくらいのものだと聞いたことがありあす。若い力士にとってさえも、過酷なスポーツであるのに、肉体の衰えというハンデを背負いながらの戦いは、どれほど苦しいものであるかと、想像するに余りあります。

 5月1日、ゴルフ界では、48歳の尾崎直道選手が中日クラウンズで優勝。
 5月16日には、アメリカ大リーグで、レンジャーズの40歳左腕ロジャーズがツインズ戦で完封、しかも、連続イニング無失点記録を、メジャー今季最長の30にまで更新をしました。

 さらに、5月19日には、42歳、ジャイアンツの工藤選手が、完投勝ちをおさめました。40歳代のプロ野球最多記録となる13奪三振、プロ野球の最年長記録の二桁奪三振という記録まで作って。

 少年のような無邪気な笑顔を見せる工藤選手の姿を見ていて、私は自分自身が情けなくなってきました。
 好きなダンスに関っていられること、たとえ思いどおりではなくても、曲に合わせて踊っていられることーーーその事実こそが、私にとって、最高に幸せなことであったはずなのに。私は、そんな大切な事実さえも忘れていたのです。

 私が尊敬する、世界的な名バレエリーナ森下洋子さんが、
かつてインタビューに答えて、こんなことをおっしゃっていました。
「私には、才能などありません。もし、あるとしたら、それは、同じことをずっとやり続けれる、という才能です。」
 60歳を過ぎて、なお、日本を代表するプリマとして舞台に立たれる方の言葉には、大きな重みがありました。

「マスターズリーグの試合には、一度、見たら、また見たくなる大きな感動がある。」
昨年、ランサーズと一緒にYMCAを踊ってくださったマスターズリーグファンの方が、こんなことをおっしゃっていました。
「同じことを、ずっとやり続けられる」―――それがどれほど難しいことか、人々にはわかっているのです。だからこそ、プロ野球マスターズリーグは多くの人々の心をとらえて離さないのかもしれません。
<2005-06-15>
 
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