サザンオールスターズの「勝手にシンドバット」の曲が聞こえてきました。何度も耳にしている曲のはずなのに、その時ばかりは、何か特別なリズムを聞いているような気がしました。
茅ヶ崎高校の演技が始まったのは午後9時過ぎ。
大会会場に着いてから、もうすでに10時間以上が経過していました。2回の食事をはさみ、生徒達は何度も何度もストレッチやミーテイングを繰り返していました。 高揚しては落ち着かせ、高揚しては落ち着かせ――その繰り返しでした。
フィギュアスケートや体操など、スコアを競い合う他の競技と同じように、チアーあるいはダンスの2分半の演技の中にも、どうしても決めたい見せ場というのがあります。
フィギュアスケートならそれが難度の高いジャンプということになるのでしょう。チアーの演技では、それが、スタンツと言われるものになります。その場面で成功すれば、その後の演技に勢いがつきます。でも、失敗してしまえば、その途端に緊張の糸が切れ、集中力が途切れてしまうことにもなります。
フィギュアスケートの選手で、名選手と言われるのは、最後まで集中の切れない選手なのだそうですが、ダンス・チアーの競技においても、同様のことが言えます。万一、ミスをしたとしても、その失敗に気落ちすることなく、逆に気持ちを高め、最後
まで攻め続けられるチーム――それが、強豪と言われるチームなのです。
フィギュアスケートの世界で日本女子選手として、始めてオリンピックでメダルを獲得した伊藤みどり選手。
リレハンメルオリンピックのフリー演技の序盤で、簡単なジャンプでミスをしてしまった彼女は、演技の終盤、起死回生をねらって、(演技がうまく順調に進んでいれば入れる予定のなかった)最高級難度のジャンプを飛び、勝負に出たのでした。 そのジャンプが決まった時、思わずこぶしを上げた、彼女のガッツポーズは今でも忘れることができません。
さらに厄介なことに、チアーは団体演技です。かりに、自分が絶好調であっても、チームメイトとの気持ちがあわなければ、失敗してしまうこともあります。
また、誰かが、ミスをすれば、チーム全体の緊迫感がなくなり、演技の勢いがなくなってしまいます。自分がミスをしたのではなくても、大きな喪失感、絶望感を味わうこととなってしまうのです。
茅ヶ崎高校のメンバー達の演技の成功の鍵をにぎるのは、その「気持ち」の問題でした。
前日のリハーサル――演技の中盤で、小さなミスが出ました。
その途端、まるで別のチームの演技かと思えるほどに、ミスを連発したのです。それまで、絶好調だったのに。 オーストラリアまで来て、大切な本番の日を翌日に控え、
私が生徒達にアドバイスできるのは、もう演技内容のことではありませんでした。
「最後まであきらめないこと。演技を捨てないこと。」
そんな簡単な、でも、とても難しいことでした。
以前に書いたことがありましたが、メンバー達の気持ちが充実している時、
不思議な空気の壁が迫ってくるのを感じることがあります。
その日、今までに、何度かしか味わったことのない大きな大きな空気の壁が、私を飲み込んでいくようでした。
元気よく、演技が始まりました。最高の笑顔です。
生徒達が何度も繰り返し練習してきた、序盤での見せ場のスタンツもうまく決まりました。
生徒達の大好きな曲にあわせてのダンスもいつもどおり。
オリジナリテイーを出したコールでも張りのある大きな声が会場に響き渡っています。
ハイキックもよく脚があがっている――と思った、その瞬間のことでした。
生徒達と私にしかわからないほどの小さなものでしたが、ミスが出ました。
<また、いつものように――――>
でも、その日の演技はいつもとは違っていました。
緊迫感がなくなるどころか、いつもより、生徒達の心の張りが強まったようでした。
あきらめるどころか、生徒達の心の中に同じ思いが広がったようでした。
「このままでは終われない!」
スピード・切れ・速さ、どれもが最後まで衰えることはありませんでした。
大会終了後、他の学校の先生方がおっしゃいました。
「鬼気迫るものがあった。」
チアー部門最優秀賞。
頂いてきた大きな栄誉よりも、トロフィーよりも、もっともっと大きな感動と喜びを私達は頂いてくることができました。
|